真夜中の仕事人
仕事を始めるのは、人が寝静まった深夜2時。
人通りの少ないオフィス街で、ビルの一階にある不動産会社に目をつけた。
裏手に周り事務所のドアノブを回すが、扉は開かない。
隣のビルとの間に目をやると、人がギリギリ1人通れる隙間がある。
その狭い隙間を通ると事務所の窓にたどり着いた。
事務所からその窓を開けても、隣のビルの壁しか見えないだろう。
普通は開けないであろう窓を横に引くと「ガラガラガラ」と勢いよく開いた。
「無用心だな」
胸ポケットから、オリジナルのメモ用紙を取り出す。
「窓の施錠がされていませんでした。お気をつけください」
最後に署名をして、事務所の郵便受けに投函した。
* * *
交番で引き継ぎを終え、警察署に戻ると警務課の前原先輩が話しかけてきた。
「高宮、またお礼の電話が来てたよ」
前原はニヤリとした顔を見せている。
「どうせ、またあいつでしょ?」
「正解!」
「自分が書いたパトロールカードで、お礼が来たことなんて一度もないですよ」
「ははは。そりゃ郵便受けに女性からのお手紙が届いていたら、お礼の電話もかけたくなるさ」
「みんな1日署長をやっているアイドルを想像してませんかね?」
「あれ?お前と平良は同期だろ?仲が悪いのか?」
「いや、そんなことはないです!嫉妬してるだけです!」
「なんにせよ、平良のパトロールカードで喜んでいる人達がいる。それは事実だ」
「そう言われると、返す言葉がありません」
「おっ、噂をすれば我が署のアイドルが来たぞ」
本署の入り口をみると、平良がこちらに向かって歩いてきた。
「前原さん、高宮。おはようございます」
「平良、また君にお礼の電話来てたよ」
「ありがとうございます。お役に立ててたら嬉しいです」
「なんでいつも平良だけ・・・」
「同じ仕事をしてるようで、質が違うんじゃないのかな?」
平良は勝ち誇ったような顔をして言った。
「まあまあ、俺は高宮が頑張っているのも知ってるよ」
「ま、ま、前原さーーん」
私は両手を広げて前原先輩に抱きつき、前原先輩は私を力強く受け止めた。
二人の男が抱き合う様子を、平良は冷めた目で見ていた。