離婚あんない

私の会社では、社員に様々な講座やセミナーの案内をしている。
英語や中国語での接客や、産休育休の休暇説明、資産運用等のライフプランセミナーまで多彩なメニューが揃っている。
ある日、回覧された書類の中に、離婚相談セミナーのチラシが入っていた。
手にとって見ると、表面に大きな文字で「離婚を決めた、あなたへ」と書かれている。

「高宮さん、離婚するんですか?」

横目で私を見ていたのか、隣のマダムが興味深そうに聞いてきた。

「その予定は無いですよ」

笑って否定したものの、聞かれたらみんなそう言うに違いない。
チラシを読んでただけで、噂話の格好のネタにされそうだ。

「高宮さん、この前離婚相談セミナーのチラシを真剣に見てたの」

「まっ、離婚するのかしら」

「否定してたけど、あれは間違いないわね」

「夜遊びしすぎて、愛想つかされたらしいわよ」

「そうそう、なんでも愛人のお店を渡り歩いているそうよ」

あることないこと言いふらされそうで怖い。

それにしても、離婚問題は限りなくプライベートな問題なので、出来るだけ公にしたくない人が多いはずだ。
会社の案内する離婚相談セミナーに参加したら、知り合いに会う可能性が非常に高い。

「あれ?平良さん?」

「あれ?高宮くん?」

「・・・君も?」

気まずさはあるが、参加者は同じ悩みを抱える者としての悩みを共有出来るかもしれない。

1人で抱え込まず、分かち合える仲間を見つけて困難に立ち向かってほしい。
離婚相談セミナーの案内は、会社からのそんなメッセージなのだろうか。