お年玉改革
仕事の忙しさもあって、1月も2月も実家に新年の挨拶に行けなかった。
3月に時間を見つけてようやく実家を訪れると、両親と同居している妹が私の1人息子へお年玉をくれた。
だけど、私は妹の子供にお年玉を用意するのをすっかり忘れていた。
「ごめん。準備はしていたんだけど、お年玉を持ってくるのを忘れてしまった」
「気にしないでいーよ。今度来た時で大丈夫だから」
妹の2人の子供にも、今度来た時にお年玉をあげる約束をして家に帰った。
〜 自宅アパート 〜
妹から貰ったお年玉袋の中を確認すると、2千円札が入っていた。
0歳の子どもに、2千円?
赤ちゃんにあげるお年玉の金額としては多い気がする。
普段からリスペクト(?)している兄への感謝の意を込めて、多めにしているのだろうか?
2千円貰ったということは、妹の子どもにも2千円を用意しないといけないだろう。
妹の子供は5歳と3歳になる。
それぞれ2千円のお年玉にすると、合計で4千円。
スタートからこの価格設定にすると、高校生になる頃には1人2万円、合計4万円になりそうだ・・・。
私の稼ぎでは、お年玉で破産しかねない。
妹と相談して、お互いに用意するお年玉の金額を決めよう。
早速妹にラインを送ってみた。
「今日は、お年玉ありがとう」
「いつも貰いっぱなしだから、ようやく返せたよ」
「小さい子供に2千円は多いから、お互い千円にしない?」
「あぁ、ごめん。いつも2人分もらっているから2千円にしたんだ」
「えっ?どういうこと?」
「いつも千円ずつ貰ってるから、それを返しただけ。兄にもう1人子供が産まれれたら、1人千円になるよ」
「えっ?そういうシステム?」
「そだよ」
「じゃあ子供が3人になったら?1人666円」
「そうだね」
「子供が4人になったら、1人500円?」
「そうなるかもね」
上限額の設定により、子供が増えると1人あたりのお年玉が減額されるシステムらしい。
親戚の子供が増えても、家計の負担が増えない画期的なシステム。
貰った分はしっかり返すが、貰った分以上は払わない。
そんな妹の強い意志から、このシステムは生まれたのだろうか。
ウィルスを超える恐怖
過去に戻れるのなら、あの時に戻りたい。
新型コロナウィルスが流行する前の世界に・・・。
2月に入ってからというもの、会社の業績が傾きだした。
職場で流れるリストラの噂よりも、私が気にしているのは株価だ。
私は東京オリンピック関連株を買っている。
数年前に購入した株は順調に値上がりし、あとは東京オリンピックの終わりを見越して売る予定だった。
それが、まさかの株価急落。
12月に100万円もあった含み益が、3月には1万円になってしまった。
俺の99万円は、どこに消えてしまったのだろうか?
株をしていることは妻にも伝えている。
妻は株に対して不信感を持っているため、丁度12月に「100万儲かっている」と説明をして説得したところだった。
そんな妻だが、ニュースで株価下落が報道されていても、なぜか一言も私に聞いてこない。
私が自首するのを待っているのだろうか。
新型コロナウィルスよりも、妻が怖い。。。
トイレットペーパーロス
家のトイレットペーパーが切れた。
ちょうど洗剤も切れていたので、いつものようにネットスーパーで買うことにした。
妻に何か必要なものがないか聞くと「トイレットペーパー品切れしてるらしいよ」教えられた。
新型コロナウイルスの影響でマスクは手に入らない状況だが、デマでトイレットペーパーも仲間入りをしたらしい。
ネットスーパーの商品リストを見ると、マスクや手洗い用洗剤は欠品だが、トイレットペーパーは在庫有になっていた。
「トイレットペーパー大丈夫みたいだよ」
「ツイッターでデマが拡散されてるらしいけど、みんな信じなかったのかな?」
「沖縄はSNSやってる人が少なくて、デマが広がらなかったんじゃないの?」
「なるほど。それにしても、デマを拡散してる人は許せないわ。捕まえて刑務所に入れればいいのに」
「デマをうまく利用して、メルカリとかで稼ぐ人とかいそうだね」
無事に注文手続きを終えたので、明日の午後には自宅に届けられることになった。
~翌日の午前~
スマホに登録されていない番号が表示された。
取るとネットスーパーの担当者からだった。
「高宮様、申し訳ありません。トイレットペーパーを確認したところ、店頭から全て消えていてお届け出来ない状況です」
「えっ!!」
想定していない事態に、一瞬頭が真っ白になった。
家のトイレットペーパーの在庫は残り2個。
「ヤバい!トイレットペーパー無いって!」
早口で妻に伝えると
「葉っぱ使う?グシャグシャにしたらお尻拭いても痛くないらしいよ」
妻はキャンプ慣れしているせいか、妙に落ち着いている。
「俺は嫌!無理!!」
なんとしても探さなければ!
大手スーパーはおそらく全滅だろう。
そして、都心部のドラッグストアも買い占められて可能性が高い。
まずはダメ元で、近所のドラッグストアに電話をかけてみた。
「すいません。トイレットペーパーの在庫ってありますか?」
「トイレットペーパーですか?少々お待ち下さい」
担当の女性は怪訝そうな声をして、電話は一旦保留になった。
ドキドキしながら待つと、数十秒後に電話が繋がった。
「トイレットペーパーありますよ」
「すぐに行きます!」
外出の準備をしなから、妻にトイレットペーパーか見つかったことを伝えた。
「今、使いやすそうな葉っぱを調べていたのに・・・」
妻はがっかりした顔をして言った。
~近所のドラッグストア~
ドラッグストアに着くとまっすぐに、トイレットペーパーのコーナーへ向かった。
いつも購入している普通のトイレットペーパーは無く、残っていたのは「高級」と書かれたトイレットペーパーだけだった。
普通のものと比べて、価格は3倍、数量は3分の1になっている。
妻のセリフが頭をよぎる。
「葉っぱでいいじゃない?」
近所の公園に生えている木々を思い浮かべた。
生い茂る葉っぱを使えば、経済的にも環境にも優しい。
環境活動家として、生きていく時が来たのかもしれない。
離婚あんない
私の会社では、社員に様々な講座やセミナーの案内をしている。
英語や中国語での接客や、産休育休の休暇説明、資産運用等のライフプランセミナーまで多彩なメニューが揃っている。
ある日、回覧された書類の中に、離婚相談セミナーのチラシが入っていた。
手にとって見ると、表面に大きな文字で「離婚を決めた、あなたへ」と書かれている。
「高宮さん、離婚するんですか?」
横目で私を見ていたのか、隣のマダムが興味深そうに聞いてきた。
「その予定は無いですよ」
笑って否定したものの、聞かれたらみんなそう言うに違いない。
チラシを読んでただけで、噂話の格好のネタにされそうだ。
「高宮さん、この前離婚相談セミナーのチラシを真剣に見てたの」
「まっ、離婚するのかしら」
「否定してたけど、あれは間違いないわね」
「夜遊びしすぎて、愛想つかされたらしいわよ」
「そうそう、なんでも愛人のお店を渡り歩いているそうよ」
あることないこと言いふらされそうで怖い。
それにしても、離婚問題は限りなくプライベートな問題なので、出来るだけ公にしたくない人が多いはずだ。
会社の案内する離婚相談セミナーに参加したら、知り合いに会う可能性が非常に高い。
「あれ?平良さん?」
「あれ?高宮くん?」
「・・・君も?」
気まずさはあるが、参加者は同じ悩みを抱える者としての悩みを共有出来るかもしれない。
1人で抱え込まず、分かち合える仲間を見つけて困難に立ち向かってほしい。
離婚相談セミナーの案内は、会社からのそんなメッセージなのだろうか。
新年のトビラ
小売業に転職して数年が経過した。
転職してからというもの、土日祝祭日、年末年始も出勤という生活だ。
今年の年末年始も、会社のため、いや地域の皆様のため、身を粉にして働いた。
正月三が日の仕事を終えた後、ようやく妻と共に新年の挨拶に親戚宅を回り、最後に妻の実家を訪れた。
妻の実家で正月料理とお酒を頂いていると、妻が私の耳元で囁いた。
「ズボンのチャックが開いてるよ」
驚いて股間を見ると、ズボンが前部がチャックから上部までV字に開いている。
さらに、隙間からトランクスの柄まではっきりと見える。
急いでチャックを閉めると、トランクスが引っ掛かった。
チャックが動かない。
上下にガチャガチャ動かしても動かない。
完全にジッパーがトランクスに食い込んでいる。
「し、締まらない」
困った顔で妻に助けを求めた。
「トイレに行け!」
妻は無表情で私に呟いた。
* * *
それからというもの、人のチャックが空いてないかを見る癖がついた。
職場の人間は、私が毎朝欠かさず股関をチェックしている。
取引先においても顔よりも先に股関を見てしまう。
これだけ注意深く見ても、なかなかチャックが空いている人間にはお目にかかれない。
もし、チャックが空いている人間を見つけたら、良いことがあるかもしれない。