黄色の異名

朝は子供を抱いてから出勤するのが日課となっている。
今日も出勤前にハイハイしている子供を両手で抱き上げた。
「行ってくるよー」
と抱きしめてから、妻に引き渡し職場へと向かった。

 * * *

朝の会議で席に着いた時、違和感を感じた。
何か妙な匂いがする。
「おならか?」
誰かが密かにスカしたのか?
気付かない振りをするのが大人のマナーというものだろう。
誰も匂いには触れず、平穏に会議は終了した。

 * * *

机に戻り、会議の関係資料を整理しているとまた妙な匂いを感じた。
「また、誰かがスカしたのか?」
周りの同僚を見渡すが不自然な動きをしている者はいない。
「気のせいか?」
ふと自分の机を見ると、書類に黄色いシミのようなものがついていた。
「これは?」
自分のシャツを見ると、黄色の汚れがびっちりとついている。
あぁ、どこかで嗅いだような匂いはこれだったのか。
周りはいつから気付いていたのだろうか?
会議で私が発言する度に
「シャツにウンコついてる・・・」
と思われていたに違いない。
どうりで今日の会議は質問もなく平穏に終わったわけだ。
小学生だったなら「ウンコシャツ」というあだ名をつけられることだろう。
社会人になった今、私にはなんというあだ名がつけられるのだろうか。
小学生の頃と違い、つけられたあだ名は私の前では語られず、裏の隠語として使われるに違いない。
せめて「黄シャツ」とか洒落た名前で呼ばれたい。

かつて人を殺しまくり、その返り血でシャツが赤く染まったという「赤シャツ」と呼ばれた男がいた。
かつて子供を抱きまくり、漏れたウンコでシャツが黄色に染まったという「黄シャツ」と呼ばれた男がいた。
並べると格好よく聞こえる気がする。

やってしまったことは、もう仕方ない。
これからは平穏に終わらせたい会議には、あえてシャツにウンコをつけて臨もう。
「黄シャツ」の高宮。
それが私のコードネームだ。